事業運営において、労働者の健康は企業の最も大切な財産の一つです。労働安全衛生法第66条では、事業者は労働者に対し、健康診断の実施を義務付けられています。同法により、労働者もまた、事業者が実施する健康診断を受診する必要があります。
今回は、一般健康診断についてまとめていきます。
健康診断の種類 | 対象となる労働者 | 実施時期 |
---|---|---|
雇入時の健康診断 | 常時使用する労働者 | 雇入れの際 |
定期健康診断 | 常時使用する労働者 | 1年以内ごとに1回 |
特定業務従事者の健康診断 | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 | ・左記業務への配置替えの際 ・6か月以内ごとに1回 |
海外派遣労働者の健康診断 | 海外に6か月以上派遣する労働者 | ・海外に6か月以上派遣する際 ・帰国後国内業務に就かせる際 |
給食従業員の検便 | 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | ・雇入れの際 ・配置替えの際 |
雇入時の健康診断について
新規に従業員を採用する際に必要とされる雇入時の健康診断は、採用前後3ヶ月以内に行うことが推奨されます。この健康診断は、常時使用する労働者を対象としています。「常時使用する」とは、正社員及び以下の条件を満たす一部のパートタイム労働者を指します。
①期間の定めがない契約をしている者 または 期間の定めのある契約をしている者のうち1年以上雇用されることが予定されている及び更新により1年以上雇用されている者
②週の労働時間が他のフルタイム労働者の3/4以上である者
上記①と②の条件を両方満たすパートタイム労働者も、雇入時の健康診断の対象となりますので、ご注意ください。
定期健康診断について
事業者は、定期健康診断を年に一度実施することが義務付けられています。実施時期は特に定められていないため、各企業が業務の都合に合わせて自由に設定することが可能です。定期健康診断は、1年以内に一度行う必要があります。対象となるのは雇い入れ時の健康診断と同様で常時使用する労働者となります。
特定業務従事者の健康診断
以下の業務に常時従事する労働者については、特定業務従事者の健康診断として年2回の健康診断を実施する必要があります。
1 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
2 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
3 ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
4 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
5 異常気圧下における業務
6 さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
7 重量物の取扱い等重激な業務
8 ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
9 坑内における業務
10 深夜業を含む業務
11 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
12 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに 準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
13 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
14 その他厚生労働大臣が定める業務
深夜業に従事する労働者については、常態として週1回以上または月4回以上の深夜労働を行う者とされています。この定義には残業により頻繁に深夜労働を行う労働者も含まれます。事業者は、これらの労働者が特定業務従事者の健康診断の対象であることを認識し、適切な健康管理を行う必要があります。
健康診断の費用負担について
労働安全衛生法では、一般健康診断の実施が事業者に義務付けられています。これにより、健康診断に要する費用は事業者が負担することとなります。ただし、法律で定められた項目以外の任意のオプション検査に関しては、費用負担の義務が事業者にはありません。
健康診断にかかる時間の扱いについて
一般健康診断を所定労働時間内に実施する義務はありません。これは、健康診断を所定休日や年次有給休暇を利用して受けることが可能であることを意味します。しかし、厚生労働省は労働者の利便性を考慮し、可能な限り所定労働時間内に健康診断を行うことを推奨しています。
健康診断実施後の対応について
健康診断を実施した事業者は以下の具体的な取り組みが必要です。
1.健康診断の結果の記録
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存しておかなくてはなりません。
2.健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聞かなければなりません。医師の意見の記入漏れは労働基準監督署の調査でも指摘が多い事項のため注意が必要です。
3.健康診断実施後の措置
上記2による医師又は歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません。
4.健康診断の結果の労働者への通知
健康診断結果は、労働者に通知しなければなりません。
5.健康診断の結果に基づく保健指導
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。
6.健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
常時50人以上の労働者を雇用する事業者は、定期健康診断の結果を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
まとめ
今回は、一般健康診断についてまとめました。健康診断は、労働者の健康を守り、安全な職場環境の確保及び労働生産性の向上に重要な役割を果たします。健康診断を適切に実施し、労働者の健康管理を行うことで、より安全で健康的な職場の維持に努めましょう。